AIを最適化させるインターフェイス
〜多方寄せられたニーズの共通課題から誕生した「Package20™」〜
はじめに…
プロダクト開発を行うエンジニアにとって、どんなプロダクトやサービスが社会に受け入れられ、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成できるかは、永遠のテーマの一つであると思います。中でも、多くの方にとって先端テクノロジーを使ったプロダクトは「扱いが難しそう」という先入観を持たれやすく、例えニーズを満たす製品であっても、受け入れ体制に入るまでに入念なフォローが必要です。
本記事は、 AI Dynamics Japan がお客様から必要とされるプロダクトを開発・提供するためにどのような取り組みを行ってきたかを 、弊社サービス「Package20™」の事例をもとに対談形式でご紹介しています。
開発を進める中で見えた、本当にお客様が求めているもの
Tech Lady(以下 TL):こんにちは、Tech Ladyです。
今回は、Package20™ の開発を主導してきた みきをさんに、どのようにして今の形になっていったのか、開発の経緯や開発時のハードシングス、実際のお客様からの反応など、いろいろ伺っていきたいと思います。
それでは始めに Package20™ を開発したきっかけから教えてもらえますか?どういった経緯から着想されたのでしょう?
みきを:Package20™ をリリースする前は、弊社は主に「AIを作る」ことに焦点を置いて製品開発やお客様へのコンサルティング行っていました。ただ、AI導入・開発を進めようとすると、どうしても学習データの収集や精度検証の段階で大きな壁があり、躓いてしまうんですね。
さらにお客様からのヒアリングを通じて得た気付きが2点あって、一つはそもそもAIがどういうものか十分理解できず、まずは試してみたいというお客様が多数存在すること、もう一点は、実はお客様がビジネスの中でAIによって実現したいことは大体共通しているということです。具体的には「人や車をカウントする」であったり「人の属性(性別や年齢)を推定する」であったりですね。そこで、そのようなすでに世の中に存在している実績のあるAI(「枯れたAI」)を誰でもすぐに利用できるようなサービスを作ろう!というのが、 Package20™ 開発に至る最初の着想でした。いわば Package20™ は「AIを作ってもらうためのサービス」でなく「AIを使ってもらうためのサービス」であると言えます。
TL:なるほど。ヒアリングを重ねる中で、もともと、AIの自社開発や内製化を支援するサービスの開発を手掛けていたけれど、今の日本においてはまだ少しサービスとして提供するには早く、お客様の事業や実際に持たれている課題にAIをどのように活用していけば良いかを啓蒙していく段階だったと。そしてAIを活用して貰うためには、活用時のイメージがしやすく、どなたでも簡単に取り入れられるプロダクトが必要だったということですね。
全てのタッチポイントにユーザー視点を
TL:お客様のニーズを発端に開発したということは、当初の想定と異なる部分も多く出てきたと思います。開発する中で苦労したことや工夫したことはありますか?
みきを:我々が Package20™ を開発する上でいつも念頭に置いているのが、「このアプリは本当に誰でも簡単に使える仕様になっているか?」ということです。通常ですと、AIのソフトウェアだけでは現場運用には不十分で、撮影用カメラ、AI動作環境(高性能なコンピュータ)、処理後データのアップロード環境など、システムとして動作させるだけでもかなりの手間が発生しますが、それに加えてユーザーごとに調整が必要な設定値(パラメータ)や、カメラの設置方法(画角や解像度調整)などのパターンを考えると、アプリのユーザビリティは途端に落ちてしまいます。
Package20™ が成功している理由の一つとして、プラットフォームにソラコム様のIoTデバイス「S+ Camera」を使用していること。こちらを採用することによって、導入時のカメラ接続やクラウドへのデータアップロード機能、さらにはAIアルゴリズムの管理に至るまで簡潔な仕組みで実現できているので、ハードウェア面での課題のほとんどは解決できています。ただし、こちらはいわゆるエッジデバイスと呼ばれるもので、処理性能はそれほど高くないので、世の中で「枯れたAI」と呼ばれているアルゴリズムでも実際にデバイス上で動作させるためには乗り越えなければいけない壁がいくつもあったりしました。
さらには、設定できるパラメータもAI業界用語を使わずなるべく直感的なパラメータのみでユーザーに設定してもらえるようにアルゴリズム内部を工夫し、本当に「電源を入れるだけで動作するアプリ」を実現できるように色々ユースケースを想定しながら開発に取り組みましたね。
TL:とにかく、誰でも簡単に使える状態にして提供することに拘ったということですね。”プログラミングなんて触ったこと無い”という人が、AIソリューションを自分で操作して把握できるところまで持っていく必要がある。現在の日本でも導入が進み始めているAIが組み込まれたエッジデバイスは、そうしたAI初心者の方々にとって扱いやすいソリューションとして認識されてきているのだろうと思います。
お客様の期待に応えるプロダクトを完成させるには、試行錯誤しながらだったと思いますが、実際、開発にはどのくらい時間を要したのですか?
みきを:Package20™ の着想を得、ソラコム様との協業を開始したのが21年4月頃、実際に開発を開始したのが同年5月、サンプルアルゴリズムを初めて提供したのが8月末、そして現在の20個のアルゴリズムをリリースしたのが12月1日だったので、開発期間は約半年でしたでしょうか。AIアプリをこれだけの短い期間で20個開発するというのは、ふつうは考えられないですね(笑)。ちなみに、開発途中でボツになったアルゴリズムも勘定すると、30くらいはあったかもしれません。
TL:ボツになった10個のアルゴリズムもったいないですね…。改良して、いつか復帰させたりできないですかね(笑)
みきを:検討はしてます。。(笑)
直接体験でAIへの苦手意識やプロダクトへの懸念を払拭
TL:プロダクトの利用状況についてもう少し聞かせてください。12月のリリース後、お客様から反響の多いアルゴリズムやよく使われているアルゴリズムはどれになりますか?また、使われ方の多い事例なども教えて下さい。
みきを:もともとユースケースの多そうなアルゴリズムを中心に開発したのですが、特に「滞在人数カウント」「通行量カウント」は汎用性が高いためかダウンロード数は比較的多いですね。反響の面で言うと、ジョーク系AIとして出した「ラーメン種別分類」はダウンロードして遊んでいただいているお客様は意外と多いです(笑)。
あとは、直接購入していただいているお客様だけでなく、Package20™ のラインナップを見て「こういうこともできるんじゃないか?」という問い合わせをしていただけるお客様も多いです。その場合、Package20™ をベースにして開発できるシステムであれば数日~数週間の開発期間で納品できることが多いです。
また、Package20™ を試してみたものの、基本機能にはない固有の対象物に対してAIアルゴリズムを使いたいというお客様には、自分でデータを作成して新たなAIアルゴリズムを作成できるサービス(「Builder™」)も提供しております。 こちらはまた改めて。
TL:アルゴリズム20個のうち、”滞在人数カウント”や”通行量カウント”など、常時数を把握できるタイプが人気なのですね。お客様がカウント系のアルゴリズムを事業で活用する際、ただ数を把握するのに使うだけでなく、時間帯と数量データをもとにしてマーケティング分析に利用するのも良さそうですね。ジョーク系AIの反響も高いという点は、安価でお試し利用の側面が強い Package20™ だからこそなのでしょうか(笑)
ちなみに、AIカメラなどでデータを取り込まなくてもAIの使用感を体験できる「Package20™ Online」も今はありますよね?
みきを:はい。 Package20™ Online のリリース経緯としては、もともとソラコム様の S+ Camera とPackage20™ の組み合わせで導入コストはかなり下がったものの、購入前に実際にお客様の手元の画像で試せたほうが安心して導入できますよね。なので、インストールも必要なくブラウザ上で画像のドラッグアンドドロップだけでAIを試せるサービスを準備する必要がありました。
現在は Package20™ のラインナップの一部のアルゴリズムのリリースにとどまっていますが、今後20個すべてに対応していくことに加え、実は20個のラインナップに含まれていないアルゴリズムもお試しでリリースしたりしています(「鳥検知アラート」リリース中)。 Package20™ Online で新アルゴリズムのα版を提供して、お客様から反応の良いものに関しては、本家 Package20™ へ昇格するなどの構想もあったりします。
TL: Package20™ Online でしか使えないアルゴリズムもあると!反応次第で正式リリースになるということは、テストマーケティングにも繋がるので、お客様、開発側が互いにメリットを享受できていいですね。お客様の声に耳を傾け、柔軟に対応していくスタイルがAI Dynamics Japanの開発の根幹にあるからこそのサービスですね。
今後の展望はラインナップの拡充
TL:最後に、Package20™ の今後進展など何か考えていますか?
みきを:のぶさん(代表:石川信能)の意見としては「Package50™」「Package108™」などの構想もあるようですが(笑)、自分としても20個にとどまらず今後どんどんラインナップを増やしていきたいと考えています。また、より高機能なアルゴリズムについてはプレミアム版として提供するなどのオプションを考えています。乞うご期待ください!
TL:おお、お客様の利用用途も拡がって、汎用性高まりますね!新しいサービスが世に出ることを楽しみにしています。
みきをさん、今日はインタビューに応じていただきありがとうございました! Package20™ 開発の裏側をたくさん伺えて、とても参考になりました。
次回は、エンジニアでない方でも本当に操作しやすいのかどうかの検証に、 実際に私が Package20™ を動かしているところをお届けしたいと思います。